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太郎さんとカラス [本]

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・・・前略・・・

ふと私は思い出した。中国の戦線にいた時のことである。
当時、私は現地教育の初年兵で、真冬の、土一色の原野で猛烈な訓練を受けた。
しかしやがて春が訪れ、あたりは緑にそまった。
 
ある日、演習の最中、息もたえだえに走り伏せた。
目の前に、深々と茂った雑草に埋もれて、小さな花が咲いている。
それに鼻先をつきあわせて、私は不意に残酷な思いにうたれた。

小さい、とるに足りない野草。
だが、小さいなりに、身体いっぱいなまめかしく赤く咲ききっている。
野は見わたす限り雑草で、それをおおう青い空はすきとおって、
涯もなく広い天地は、まったく真空である。
 
いったい誰が、何が、この花の小さいながら誇らしげに装った姿を見るんだろう。
私のような兵隊が、たまたま演習で身を投げ出したからこそであるが。
でなければ何ものにも気づかれずに、命を終わってしまうのだ。
 
目的のない可憐さ、その誇り。私には絶対的な感動であった。
些細なことだ。しかしあの花の美しさは、残酷に思い出に食い入っている。

岡本太郎 『残酷さについて』より一部抜粋

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

岡本敏子さんの名前で出版されている 『太郎さんとカラス』 という本を読んだ。
岡本太郎さんはカラスと一緒に暮らしていたことがあるのだという。
しかし「カラスを飼っているのですか?」と人から聞かれれば
「飼ってないよ。一緒に居るだけだ」と答えていたそうだ。
”カラスのどんなところに惹かれるのか” という話はいかにも彼らしい。
「馴れないからいい」と言うのだ。
かわいがられるときは平気でかわいがられるが
決して媚びる事をしないところが魅力なのだそうだ。

敏子さんによれば
”生き物としての切実な共感が(太郎さんを)カラスに寄り添わせたのだろう”ということだが
カラスに向けた表情が実に柔らかく
ガア公(カラスの名前)が本当に愛しくて愛しくて仕方がないのだと
その優しさに満ちたまなざしが雄弁に語っているのだ。 
それらの写真を見ていたら 心に温かいものが流れ込んでくるのと同時に
どういう訳か 切なさも感じてしまった。

冒頭のエッセイは、この本の中の一編である。
一見カラスとは関係ないように思われるが
その在り方に彼が深く共感しているという点で相通ずるものがあると感じ
特に強く印象に残った。

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SHOKO

Sizukuさん、今晩は。

昨日、一昨日と終日外出しており、
素敵なブログに漸く今、立ち寄らせて頂くことが叶いました。
太郎さんとカラス の記事から拝見させて頂いておりますが
Sizukuさんの 文集力、着眼点、そして(私が申し上げるのも
憚られまずか)ブログの完成度の高さ、
センス・・・・・全て本当に素敵だなぁ~と、
心のひだに染みいりました。美しいSizukuさんの世界を
教えて下さり、心より嬉しく感謝致します。
こんなに素敵なブログ、こっそりではもったいないなぁ~と
思いました。今はただ ただ感動しています。
プロフィールを拝見させて頂いた時、感動で胸にグッと
こみ上げてくるものがありました。
今はまだこちらの記事しか拝見させて頂いていないのに
得意でいらっしゃることを拝見させて頂いた時、
本当にその通り!と 思いました。
Sizukuさんの美しい世界にこれからお邪魔させて頂くことが
大きな楽しみの1つです。どうも有難うございます。

わんちゃんと猫ちゃんもみせて下さり有難うございました。
本当に可愛くて♡ワンちゃんも猫ちゃんも 
とても優しい表情をしていて、きっとご家族の皆様に
大切に大切にされていることがとてもよく伝わりました。
感謝をこめて


by SHOKO (2012-06-14 01:10) 

おかぴょん

確かに・・・・・

同じ空間、同じ時間に生きるもの同士の

束の間の出会いに

優しさと哀しさが感じられます。


by おかぴょん (2012-06-14 01:56) 

なでしこ

こんにちは!タロー私も大好きです!
特に若い頃の本は何十年も前の文章なのに
ハッとすることばかりです。

うちの今は亡きもーちゃん(猫)も飼っていたわけじゃなく
一緒に暮らしていたのです。

でも、これが対、人になると俄然独占したくなって困ります。
必要とされたいと思ってしまって困ります。
まだまだタローの心境にはほど遠いです。とほほ。



by なでしこ (2012-06-14 10:06) 

ゆうみ

読み噛みしめる度に味わいがある文章ですね。
私もこのように 感じる人間になりたい。
by ゆうみ (2012-06-14 12:16) 

Sizuku

Shokoさん、こんばんは☆
お忙しい中、遅い時間にお立ち寄り下さり
大変丁寧なコメントを頂きまして、感謝の思いでいっぱいです。
そして身に余るお褒めの言葉を頂戴し、恐縮しておりますが
Shokoさんにそんな風におっしゃっていただけるのはとても嬉しくもありました(*^^*)

プロフィールは ”私とはこういう者です” と
恐れることなく表明する練習の場となりました。
そこに目を向けて下さったこと
そして共感して頂けたことに何とも言えぬ歓びを感じています。

Shokoさんの”伝える”ことへの真摯な思いと真心を
再び感謝して受け取らせて頂きます。
ありがとうございましたm(_ _)m

by Sizuku (2012-06-14 17:15) 

Sizuku

おかぴょんさん、こんばんは^^

そうなんですよね・・・
もしかしたら出逢うことがなかったかもしれない
そんな束の間の出逢いについて
あれだけ深く感じていらっしゃる太郎さんの感性に
なんだか心を打たれてしまうのです。

切なさとは簡単には言葉で表現できない複雑な想いであることを
ガア公と一緒に居る太郎さんの写真を見ていて痛感いたしました。


by Sizuku (2012-06-14 17:22) 

Sizuku

そうでしたか!
なでしこさんも太郎さんがお好きなのですね♪
”タロー”と友達みたいに呼び捨てにされているところ
めちゃくちゃウケました~(^^)b

もーちゃんとの思い出、とても素敵ですね^^
猫さんは基本的にとても自立している生き物であると思うのですが
だからこそ成り立つ関係でもあるのかもしれませんね。

太郎さんは突き抜けていますから
何人も そう簡単にその域には到達できないのではないか?と思いましたよ^^

太郎さんの生き方を拝見していると
ご自身をとても信頼していらっしゃいますよね?
人にどう思われるかなんてまるで気にせず
誤解を恐れずに自分を表現し
それが自分だと堂々と言い切れる

そこまで激しくなくとも
私も太郎さんのように自分を愛し
恐れずに表現したいと思っているところです。
なぜなら、誰とであれ ”一緒に居るだけ”というスタンスで
お互いが自分の足で立っていながら成り立つ関係は
自己愛がキーなのでは?と感じているからです。

あ!気づけばこんなに…(^^;
長々と大変失礼いたしましたm(_ _)m
by Sizuku (2012-06-14 17:42) 

Sizuku

ゆうみさん、こんばんは☆

本当ですね^^
太郎さんの文章はとても味わい深く
太郎さんのフィルターを通して
まっすぐ語りかけてくるのでハッとさせられます。

ゆうみさんのご文章も
その素敵な感性で受け取られたものを
ご自身のフィルターを通して表現されていますよね?
そういうところに惹かれて日参している私なんですよ(*^^*)

by Sizuku (2012-06-14 17:53) 

ゆうみ

どうもありがとうございます。
by ゆうみ (2012-06-14 22:56) 

Sizuku


ゆうみさん
こちらこそいつもありがとうございます^^
by Sizuku (2012-06-14 23:18) 

ken

「ふと私は思い出した。中国の戦線に・・・」
”私”はSizukuさんなの?と失礼な錯覚をしでかしました。(笑)
引き込まれて最後まで殆ど一気に読ませていただきました。
そして、思い浮かんだのは「共生」。樹齢1000年、それに比べたら人間の短いこと・・・


by ken (2012-06-15 00:09) 

Sizuku


Kenさん、こんにちは^^
コメントありがとうございました。

すみません!
これは確かにすごく紛らわしいと思います(^^;
きっと、この人は一体何歳なんだ?と驚かれたことでしょう。(笑)
そんな想像をして、ちょっと笑ってしまいました(^m^)

本当ですね、人の一生って短いですよね。
「共生」という言葉を思い浮かべたとおっしゃるKenさんのメッセージを読ませて頂いて
過去にKenさんと同じようなことを感じた時の感覚が蘇りました。
もしかして記事にさせて頂くかもしれません。
インスピレーションを与えて下さりありがとうございました(#^^#)

by Sizuku (2012-06-15 14:37) 

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